健二は日々悩んでいた。
 何を悩んでいるのか?それは…

 なぜ日和はあんなにポンコツなのか、という事についてだった。
 
 口を開けばトロい口調、歩けば何もないのに転ぶ…
 そばにいる人間はとても迷惑だ。
 というか、あのままで行ったら日和本人の将来がとても不安に思えた。
 …
「よし…」
 健二は何かを決意した表情で呟いた。

「日和を…調教する」


§

 チュンチュン…
 小鳥の囀りが、朝の到来を告げる。
「ふぁあ〜あ…」 
 健二はいつもより早く目を覚ました。まだ眠りかけの半身を起こし、目をこする。
 時計を見ると、いつもだったら遅刻ギリギリの時間だった。 
 しかし今日は日曜日。学校は休みだ。
 普段休日なら昼ぐらいまで寝ている健二だが、今日は早く起きる理由があった。
(たしか、日和の買い物に付き合う約束をしてたんだよな…)
 本来ならそのための早起きだったはずだった。
(日和…残念だったな…今日の予定は中止だ)
 そう、日和を調教するのだ。
 日和の奴、昨日「朝、起こしに行くよ〜」とか言ってたから、そろそろ起こしに来る頃のはずだ。
 ならば、準備をしなければ…

 数分後…

 コンコン。

「けんちゃ〜ん、起きてる〜?」
 ドアをたたく音と、間延びしたやる気なさげな声が部屋に響く。日和だ。
「けんちゃ〜ん」
 健二は返事をせずに、黙っている。
「入るよ〜?」
 
 ガチャ。
 
 部屋のドアが開いた。
 そこからおそるおそるといった感じで日和が顔を出す。
「けんちゃ〜ん、朝…あ、あれぇ〜?」
 日和がベットに近づき、布団をめくる。
「あれ〜?けんちゃ〜ん、どこ〜?」
 しかしそこには健二の姿はなかった。
「はっはっは、日和、どこを探している!!」
 どこからともなく健二の声がする。
「えっ?けんちゃん、どこにいるの〜?」
 日和はきょろきょろと辺りを見まわしている。
「俺はここだぁっ!!」
「えっ!?」
 声のする方…天井を見上げる日和。

 ズギャァァァァァァン!!

 謎効果音と共に、画面に集中線が入った気がした。
 そこには、両手両足で室内灯にしがみつく健二の姿があった。
 そう、健二は天井にいたのだ!
 …ちなみに、セリフとは裏腹にとてもカッコ悪いポーズだった。
「けんちゃん、そんなとこで何してるの?」
「いや、日和を驚かそうと思ってだな…」
「…」
「…」
「…とりあえず降りてきてよ〜」
「…うむ」
 下に降りてくる健二。
「日和、びっくりしたか?」
「うん、びっくりしたよ〜。だってけんちゃん天井にいるんだもん」
 そう言う日和だが、日和の様子を見て健二は「コイツ、あんまり驚いてないな…」と思った。 
「あんなに苦労したのに…」
 独り言のようにつぶやく健二。
「でもけんちゃん、今日は自分で起きられたんだね〜」
「うむ、まあな…」
「じゃ、早速買い物に行こうよ〜」
「その事だが…今日の買い物は中止だ」
「ええ〜!どうして〜」
「それはな、日和…」
「?」
 日和を指差し、俺は言った。
「お前がポンコツだからだ!!」
「え、ええ〜!?」
「わたしポンコツじゃないよ〜」
 日和が泣きそうな顔で否定する。しかし健二はかまわず続けた。
「お前がポンコツなせいで、周りの人間はとても迷惑しているんだぞ!!」
「迷惑なんてかけてないよぉ〜」
「ほぉ、言い切ったな?」
「だって、迷惑なんてかけてないもん」
 日和がちょっとしょんぼりした顔で言う。
「…俺と日和は昨日学校に遅刻した。さぁ、これは誰のせいだ?」
「…だれのせい…かな?」
「…お前、昨日学校行く時、転んだよな…?」
「…うん…」
「そのせいで遅刻したんじゃないか!!」
「ふぇえ…」
 日和が半べそになる。しかしまだ健二は攻撃の手を緩める事をしなかった。
「言い換えれば、おまえがポンコツだから遅刻したんじゃないか!!」
「え゙〜ん、ひどいよ〜」
 泣き出す日和。健二は当然の事だと言わんばかりの表情をしている。
「さて、これでおまえのポンコツっぷりが周りの人間に迷惑をかけることが分かっただろう…」
「ゔ〜」
「しかしだ」
「?」
「ポンコツだった日和は今日死ぬ…」
「え…?」
「日和…今日はおまえを非ポンコツに調教してやる!ポンコツを脱出できるまで買い物はおあずけだ!!」
「え、ええ〜!?」
 日和の間延びした声が部屋に響いた。

§
「用意があるから少し部屋から出てろ」
 健二からそう言われた日和は、廊下で健二からの呼びかけを待っていた。
 一人待っていると、雪希が階段を上がってきた。
「あれ?日和お姉ちゃん、こんな所で何してるの?」
「あ、雪希ちゃん…なんかね、けんちゃん準備があるから少し部屋から出てろって…」
「今日は日和お姉ちゃん、お兄ちゃんと買い物に行くんだよね♪」
「そのはずだったんだけどね…なんか中止になったみたい…」
 しょんぼりした顔で日和が言う。
「え?どうして…?」
「私もよく分からないんだけど…なんか調教がどうのって…」
「え…ち、調教…?」
 みるみるうちに雪希の顔が赤くなっていく。
「ひ…日和お姉ちゃん、もしかしてお兄ちゃんと変なビデオ見なかった?」
「変なビデオ?」
「うん…なんか女の人が出てきて…その…」
「女の人?」
「例えばっ…その…エリコ○6才…とか…」
「?よく分からないけど、ビデオは見てないよ〜?」
「そっ、そうだよね!あはははは…」
 雪希が乾いた笑いを上げる。
「雪希ちゃん、なんか変だよ…?」
「えっ!?そ、そんなこと無いよ〜」
 雪希はやけに慌てた様子で、両手を左右に振った。
「それで、そのエリコ○6才って…」
 そこまで日和が言いかけた所で…
「ああっ!私お料理の途中だったんだ!それじゃあね、日和お姉ちゃん!」
 そう言うと、雪希はぱたぱたと階段を下りて行った。
「どうしたんだろ雪希ちゃん…なんか変だったけど…?」
 よく分からないまま立ち尽くしていると、部屋から声がかかった。
「おい日和、準備完了だ。入っていいぞ」

§

「おい日和、準備完了だ。入っていいぞ」
 廊下の日和に呼びかける。
「入るよ〜」
 そう言って部屋に入ってくる日和。
「わ…どうしたの?その格好…」
 日和が驚くのも無理は無かった。
 いつもは比較的ラフな服装をしている健二だが、今はまったく違った。
 黒いスーツに白いワイシャツ、黒いネクタイに眼鏡、そして教鞭まで持っていた。
「フ…」
 健二は鼻で笑うと、眼鏡を中指で押し上げた。
「これはお前の間延びした口調を直すための授業…そしてこの服装はそのための正装だ…」
「そう、狂師としてのな!!」
 鋭い目つきで健二は言った。
「…何がかはよく分からないんだけど、違う気がする…」
「細かい事は気にするな…」
「しかもそのホワイトボード、どこから持ってきたの…?」
 日和の言う通り、部屋にはひとつのホワイトボードが置かれていた。
 当然、普段健二の部屋には無いものである。
「まぁ、細かい事は気にしてくれるな…」
「…ご都合主義…」
 日和がぼそりとつぶやいた。
「何か言ったか?」
「ううん、なんにも。あはは…」
「ねぇ、けんちゃん、どうしてもやるの?」
「うむ。買い物に行きたかったら早く非ポンコツになる事だ」
「…はぁ」
 観念したのか、日和は大きなため息をついた。
「よし、では早速始めるぞ」 
 そう言うと、健二はホワイトボードに何やら字を書き始めた。その言葉は日本語だったが、日和はあまり聞いた事の無い言葉だった。
「よし、まずは俺がお手本を聞かせるから、日和はそれに続いて発音しろ。いいな?」
「うん…」
「まず、この言葉は相手を威嚇する言葉だ…」
「威嚇…?」
「そう。だから怯えさせるぐらいの勢いでだ!じゃ行くぞ!!」
 バシィッ!と教鞭でホワイトボードを叩き、健二は叫んだ!
「ゴルァ!(゚Д゚)」
「ご、ごるぁ…?」
「甘い!もっと気合を入れて、相手を殺るぐらいの勢いで!!ゴルァ!(゚Д゚)」
「ご、ごるぁ…」
「そんな軟弱なゴルァ!では現在の厳しいネット社会を生きていけないぞ!!」
「ご、る、あ〜」
「もっと力強く!!ゴルァ!(゚Д゚)」
「ご〜る〜あ〜」
「…」
「ご〜る〜あ〜」
「…」
「ごるぁ?」
 急に黙った健二を見て、首を傾げる日和。
「日和」
「なに?けんちゃん?」
「真面目にやってるか?」
「うん、わたし真面目にやってるよ〜」
「マジか…?」
「うん、まじだよ〜」
 額に人差し指を当て、考えこむ仕草の健二。
「残念だが、まったく威圧感(プレッシャー)を感じん…」
「そうかなぁ〜?一生懸命やってるんだけど…」
「…サスガにいきなりゴルァ!(゚Д゚)はハイレベルだったか…ならば…」
 健二はそう言い、ホワイトボードに書いてあった「ゴルァ!(゚Д゚)」を消し、新しい文字を書き始めた。
「…今度はどんな言葉なの?」
「うむ、今度は素晴らしいもの、良いモノに触れたときに使う言葉だ」
「うん」
「少しレベルを下げたから、今度はしっかりやれよ?」
「うん、わたし頑張るよ〜」
「よし、行くぞ!!ついて来い日和!!」
 健二はバシィッ!とホワイトボードを叩いた!
 そして息を吸い込み、全力で言葉を吐き出した!
「イイ!!(・∀・)」
「いい?」
「もっと強くだ!!」
 バシィッ!とホワイトボードを叩きながら叫ぶ健二。
「イイ!!(・∀・)」
「イイ?」
「もっと、もっと強くだ!!」
 バシィッ!バシィッ!
 教鞭でホワイトボードを叩きながら再び叫ぶ健二!
「イイ!!(・∀・)」
「うぇ〜ん、よく分からないよ〜」
 ついには泣き出してしまう日和だった。 
 
§

 その頃。
 雪希はキッチンでクッキーを作っていた。
 普段はお菓子作りなど手馴れたものだが、今日は少しミスが多かった。
 ナゼか。
 気になる事があったからだ。
 それは、先ほどの日和との会話。
(調教って…お兄ちゃん何するつもりなんだろう…?)
(調教と聞いて思い浮かぶ事は…)
(…)
(……)
(………)
 ぼっ。
 顔を赤くする雪希。
(ま、まさか、お兄ちゃんに限ってそんな事は…)
(…)
 雪希は今までの健二の所業を思い出していた。
 だまされて見せられた謎のエリコ○6歳というビデオの事を…
(あるかも知れない…)
 イマイチ自信の持てない雪希だった。
(あ、でも変なビデオは見せられてないって言ってたし、そんな事はないよね…)
(ちょうどお菓子も出来たし、差し入れに行こうかな…)
 そう思い、出来たばかりのクッキーを皿に乗せ、健二の部屋に向かう…
 タッタッタ…
 階段を上がり、健二の部屋に着く。
「お兄ちゃ…」
 部屋越しに声をかけようとしたその時…

 バシィッ!
「イイ!!(・∀・)」
「いい?」
 
 そんな音と声が聞こえてきた。
(何をしてるのかな…?)
 そう思い雪希が耳を澄ましていると…

「もっと強くだ!」
 バシィッ!
「イイ!!(・∀・)」
「イイ?」

 またそんな音と声が聞こえてきた。
(バシィッって、何の音なんだろう…?)

「もっと、もっと強くだ!!」
 バシィッ!バシィッ!
「イイ!!(・∀・)」

(…もっと強く…?)
 バシィッ!という効果音…
 健二の「イイ!!」という声…
 日和の問いかけるような「イイ?」という声…
 そして「もっと強く」という健二の声…
(!)
 全てが、雪希の中で繋がった。
(…まさか)
 カタカタと震え始める雪希。
 雪希は頭の中でこんな事を想像していた…。

 バシィッ!
 四つんばいになった健二に鞭を打つ日和。
「イイ!!(・∀・)」
 快楽に打ち震えながらそう叫ぶ健二。
「いい?」
 感想を聞く日和。
「もっと強くだ!」
 さらに大きな快感が欲しいのか、さらに痛烈な鞭を求める健二。
 バシィッ!
「イイ!!(・∀・)」
「イイ?」
「もっと、もっと強くだ!!」
 バシィッ!バシィッ!
「イイ!!(・∀・)」
「るんらら〜よかったね〜♪」
 バシィッ!バシィッ!バシィッ!
「イイ!!(・∀・)イイ!!(・∀・)イイ!!(・∀・)」

(ぷるぷるぷる…)
 雪希は顔を青くして震えた。
(まさか、お兄ちゃんがMだったなんて…)
 何か少し現実とは違っているが、冷静さを無くした雪希にそれを判別する術は無かった。
 色々と恐れをなした雪希は、差し入れに持ってきたクッキーを健二の部屋のドアの前に置き、足早に去ったのだった。

§

 タッタッタ…
 二階から日和と健二が降りてくる。
「雪希、俺と日和はこれからちょっと外に出てくるから留守番頼むな」
「う、うん。分かったよ、お兄ちゃん」
 ナゼか慌てた様子で雪希が答える。
「?どうしたんだ雪希?なんかお前今日ちょっと変じゃないか?」
「うん、わたしもそう思う…」
 日和も健二の意見に同意する。
「わ、私はいつもどおりだよ〜」
 やはり慌てた様子で雪希が言う。
「さっきも差し入れがあったんならノックぐらいしてくれればよかったのに」
「う、うん。ノックしようと思ったんだけど、邪魔しちゃわるいかな〜と思って」
「そんな事気を使わんでもいいのに…じゃ、外に出てくるな」
 そう言って玄関から出ようとする健二に雪希が声をかけた。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
「私は何も見てないし、何も聞いてないし、お兄ちゃんがどんな趣向を持ってても、私はいつでもお兄ちゃんの味方だからね!」
「…は?」
 イマイチ分からない事を言われ、一瞬あっけにとられた健二だが、すぐに
「おう。サンキュな、雪希」
 そう言い、外に出た。
「じゃあね〜雪希ちゃん」
「うん、また後でね。日和お姉ちゃん」
 バタン、とドアが閉まる。
「…」
「外では、一体何をするつもりなんだろう…?」
 雪希は相変わらず勘違いしたままだった。


 そして健二と日和の二人は外に出た。
「健ちゃ〜ん、今度は一体何をするの〜?」
 例によって日和が情けない声を上げた。
「お前のポンコツさ加減を表すファクターとして重要なもの…とろいしゃべり、そして何も無い所で転ぶ、その運動能力の低さだ!」
 ズギャァァァァン!といった感じで日和を指差す健二。
「う〜」
 サスガに真実を言い当てられ反論できないのか、日和はただ唸っているだけだった。
「正直そのとろいしゃべりを矯正するのには失敗したが、もうひとつのファクターである運動能力の低さを矯正できればお前のぽんこつっぷりは相当ダウンするはずだ!!」
「で…これからどうするの…?」
 日和が不安そうな顔で尋ねる。
「走るぞ」
「ええ〜」
 日和があからさまに不満そうな声を上げる。
「…買い物に行きたくないのか…?」
「う〜う〜」
 これを言われては従わざるを得ないらしく、不満そうにしつつも健二について来る日和。
「で、なんでけんちゃんは自転車に乗ってるの〜?」
「走りをコーチする人間は自転車に乗ってるのが世界の常だぞ?」
「…そういうものなのかなぁ…」
「そういうものだ。文句を言わずついて来い、日和!今日の目標は町内一周だ!」
 そう言い、自転車を走らせる健二。
「わ、待ってよ〜きゃっ!」
 べちっ。
 足をもつれさせ、思いっきり顔面から転ぶ日和。
「開始数秒で転ぶなよ…」
「そんな事言ったって〜」
 いきなり不安になりつつも、健二は倒れた日和に手を貸し、引き起こした。
「けんちゃん、ごめんね…」
「まぁ、いい。それより走るぞ」
「うん…」
 そうして二人は再び走り始めた。
 日和は転びそうになりながらも何とか健二についてきているが、スピードはとてつもなく遅かった。
(むぅ…これは少し危機感を与えてやった方がちゃんと走るかもな…)
 そう思った健二は、一気に自転車のスピードを上げた。
「日和、少し先に行くぞ!」
「ええっ!?待ってよけんちゃん〜」
 日和の情けない声を無視し、一気に日和を抜き去る。
 健二は少し差がついた所で後ろを見た。すると思ったとおり日和は先ほどより全然速いスピードで走っていた。
(よし、この作戦は成功だな)
 そして健二はさらにスピードを上げ、差をつける。
 横断歩道を渡り、少しした所で体だけ振り返る。
 日和はまだ、横断歩道を渡り始めた所だった。
(なんだよ日和のやつ、まだあんな所に…)
 日和の方を見たとき、健二は少し違和感を覚えた。
(ん…何か変だ…)
 日和は今横断歩道を半分ぐらいまで渡っている。日和自体に違和感は無い。
(何だ…?一体…?)
 間違いなく何かが変だった。健二はその違和感の元を探した。そして健二の目がとある一点に向いた時…
(!!)
 健二は自転車を倒し、日和に向かって全力で走った。
 健二の目の向いた場所…それは信号。
 そして信号は赤だった。
 健二が感じた違和感とは、赤信号を渡ろうとする日和だった。
 そして健二が駆け出した時には、一台の車がクラクションを鳴らしながら日和に向かって突進していた。
「え…?」
 日和は、何が何だか分からずに突進してくる車を見つめていた。
 健二は駆けた。
(日和に二度も同じ思いをさせるかよ…ッ!!)
 健二は日和に向かって飛んだ。
 健二の手が、日和に触れた。
 それと同時に、健二の目に写る世界が派手に回った。耳をつんざくようなクラクションとともに。

§

「…」
「……」
「………」
「………ゃん」
「………ちゃん!」
 呼び声が聞こえた。
「けんちゃん!!」
 耳慣れた声…健二の良く知っている声だった。
 健二はうっすらと目を開けた。そうするとよく見知った幼なじみの顔が見えた。
「よお、日和。何泣いてるんだよ?」
 健二は地面に横たわっていた。そして少し前の事を思い出していた。
(そうか、確か日和を助けようとして…)
 気は失ってたようだが、特に体の異常は無い様だ。
「けんちゃんっ!けんちゃんっ!わたしっ…」
 そう言い、健二に抱きつき泣きじゃくる日和。
「ゴメンね、ホントわたしってとろくて…けんちゃんに迷惑かけてばっかりで…っ」
「…」
 泣く日和を少し眺めた後…
「…ホントお前はとろくて、ポンコツだよな…」
 そう、言った。
「…うん、ゴメンね、ホントにゴメンね…」
「…お前のポンコツっぷりは、バカが一生治らないのと一緒で、きっと一生治らねぇよ」
 健二は突き放すように冷たく言い放った。
「…そうだね…わたしってみんなに迷惑かけっぱなしで…いない方がいいかもしれないね…」
 日和は少し自虐的にに笑った。
「でもな…」
 そう言って、健二は日和の頭を撫でた。
「え…?」
「俺がお前のそばにいる限りは、ポンコツでいる事を許してやるよ」
「でも…」
「お前のちょっとしたミスぐらい、俺一人いればフォローできるしな」
「今回がいい例だろ?」
「けんちゃん…」
「…それにポンコツじゃない日和なんて、日和じゃないぜ?」
 健二はそう言い、笑った。
「…うん、そうだね」
 日和も泣きながら、笑った。
「さて、んで俺をフッ飛ばした車はどこに行った?」
「もうどっかに行っちゃったよ…ってけんちゃん体は大丈夫なの?」
「ああ、ちょっと頭を打って気を失ってたみたいだがどうってことねぇよ。ま、車もどっか行っちまったんなら好都合だな。いちいちめんどくさい取り調べに付き合う必要がなくなったわけだし」
 健二は立ち上がり、日和に手を差し出した。
「さて。さっさと立てよ、日和。行くぞ」
「うん…って、どこへ行くの?」
 健二の手を取りつつ日和は聞いた。
「買い物…行くんだろ?」
 それを聞いた日和は一瞬驚き、そして…
「うんっ!!」
 満面の笑顔で頷いた。


〜終〜


























〜おまけ・その夜の片瀬家〜

「お兄ちゃん、叩いて欲しかったら遠慮せずに言ってね…その…私、力いっぱい叩いてあげるから…」
「…は?」
 相変わらず雪希は勘違いしまままだった。